Chapter 3 Illusions
手記番号154
いくら強力な支援者が付いているとはいえ、
巻き添え被害がここまで拡大すれば人目に付くのも
時間の問題だ。
KCPDが頻繁に姿を現すようになった。
女性刑事の…何と言ったか名前は思い出せないが…
何れにせよ、私は警察と関わりを持たない方が良さそうだ。
メビウスの連中は研究の邪魔に
ならない様に対処すると言っている。
それとあのクリムゾン・ポストの記者…
アイヴァンとかいう男… 個人的に、厄介な存在に
なりつつある。教会で人が生贄にされているなど
ナンセンスなネタを記事にする三流記者だが、
最近は患者の失踪容疑について興味を
示し始めている。こんな男にビーコン精神病院を
潰される訳にはいかない…
こういう問題にもルベンが役に立つかもしれない。
ルベンとの「独占インタビュー」を餌にすれば
食いついてくるかもしれん…
手記番号209
ルベンが… 彼の驚愕の姿を、私はこの目で見て
しまった。自分が指導してきたあの青年が今は…
脳だけが試験管のなかに浮いている…
連中は初めからこれを計画していたのだろうか。
私はなんてことをしてしまったのだ…
連中は人工的に脳を刺激し続けることで、ルベンの
脳を生かしている。彼の意識は精神的な拘束衣に
縛られた、機械の歯車となってしまった。
名前も人間性をも奪われ、RUVIKという
コードネームで呼ばれている。
彼の墓にツバを吐くような、下品なジョークだ。
あのガラス容器を壊して、全てに終止符を
打ってしまおうかという感情にかられたが、
その怒りはすぐに科学者としての好奇心で
上書きされた。ルベンの遺産は生き続ける。
そして次なるステップは私自身に託され、
この悲劇を私自身の成果につなげてみせる。
手記番号133
悲しいことに、ルベンの研究は多くの被験者を
必要としてきた。ここにいた患者と同じ…
いや、それ以上に苦痛を強いられてきた。
幸いと言っていいいのか… ビーコン精神病院と
この街には必要に充分なだけの被験者がいる。
恥ずべきことだが、この仕事に就くとき誓った
倫理など、遠い昔に捨てた。研究による科学と
医療に及ぼす影響、そしてその可能性を、
もはや無視することはできない。
メビウスが私にかなりの報酬を提案してきた。
ビーコン精神病院の院長ともなればそれなりの
覚悟が必要だ。まずは学会誌などで論文を発表して
世間の評価を得てほしいと言われている。ルベンの
研究を少し改編すればなんとかなりそうだ。
きっと彼も気付かないだろう。
Chapter 4 A Ghost Is Born
手記番号31
あの火事からの生還、そしてその後も絶える事の
なかった親の虐待を考えると、ルベンが
まだ働いていることは奇跡に近い。
仕事に対する彼の動機は恐怖や金、社会的地位から
来ているものではない。それはもっと純粋なもの
だろう。現実を再形成して、また「彼女」と一緒に
暮らせることに心を奪われている様に思える。
彼が追っている傷は肉体的にも精神的にも深く、
亡くなった姉に対する想いは一般的な家族愛を
超えている。それが彼のモチベーションに
なっているのであれば、それはそれで結構な
ことではあるが。
手記番号232
昨日再び、ヴィクトリアーノ邸に足を運んだ。
希望に満ちた面影は、もうそこには無かった。
我々が研究を引き継いだと同時に、メビウスは
価値のある物全てを奪っていった。ただ、残された
ルベンのメモには、彼が別の実験に関係していた
ことが示されていた。もう一つのSTEMの
プロトタイプが検討されていたらしい。
受容器を介して脳の働きを第三者に無線で
伝達するとか… 超心理学観点からしても
ギリギリの理論だが、設計図と資料を見る限り
理にかなっている。
いったい何を計画していたのだ。
確実に知るためには方法は一つ。やつらの目が
届かないところで実験を続けるしかない。
知られてしまえば全てが水の泡だ。
この研究も私から奪われてしまうに違いない。
手記番号188
上の連中が研究の進展に不満を持ち始めた。
現状の状況をしきりに求めてくる。
結果が重要だと言っていた連中が、今では自分達に
都合の良いスケジュールを押しつけてくる。
典型的な官僚だ。
ルベンには急ぐよう圧力をかけているが、
逆に離れていく始末だ。自宅で研究することも
少なくない。直接STEMのプロトタイプに関わる
仕事でない限りラボに顔を出すことを拒む
ようになった。
心が落ち着かない。
メビウスは私を疑いはじめているに違いない。
手記番号264
連中が私を探している。
どうやったか分からないが、全てを知っている。
レスリーの事も。もはやこれ以上隠す
意味がなくなった。
こうなったらシステムに入るしかない。
そして戻ってきた時、連中に意味のある成果が
あったと報告するしかない。自分の為ではなく、
彼らの目的の為だったと…
残すは微調整のみ。それが終わればレスリーと共に
STEMに入り、システムを起動する。その後、
ワイヤレスの信号が鳴り響くだろう。
周囲の人間には申し訳ないが、目的のためには
手段を選んでいられない。
メビウスの連中は、これで私が選ばれし者だという
ことを理解するだろう。ルベンは単なるゴースト。
私は彼らの救世主なのだ。
私無くして彼らの計画は存在できない。